東京地方裁判所 平成9年(ワ)17177号 判決 1999年1月29日
大阪市中央区平野町二丁目一番二号
原告
日本臓器製薬株式会社
右代表者代表取締役
小西甚右衛門
右訴訟代理人弁護士
品川澄雄
同
吉利靖雄
右補佐人弁理士
村山佐武郎
東京都千代田区有楽町一丁目一〇番一号
被告
東菱薬品工業株式会社
右代表者代表取締役
千賀健司
右訴訟代理人弁護士
吉井参也
同
椙山敬士
右補佐人弁理士
金谷宥
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
一 被告は、別紙目録三記載の方法を使用してはならない。
二 被告は、別紙目録一記載の抽出液を製造し、輸入し、販売し、別紙目録二記載の製剤を製造し、販売し、かつ、これらを宣伝広告してはならない。
三 被告は、別紙目録一記載の抽出液について薬事法に基づいて取得している輸入承認、別紙目録二記載の製剤について薬事法に基づいて取得している製造承認及び別紙目録二記載の製剤について健康保険法に基づいて収載を受けている薬価基準をそれぞれ取り下げなければならない。
四 被告は、別紙目録一記載の抽出液について薬事法に基づいて取得している輸入承認及び別紙目録二記載の製剤について薬事法に基づいて取得している製造承認を他に承継せしめ、又は譲渡してはならない。
五 被告は、被告の所有する別紙目録一記載の抽出液及び別紙目録二記載の製剤を廃棄しなければならない。
第二 事案の概要
本件は、カリクレイン生成阻害能の測定方法に関する後記一1記載の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲第1項記載の発明を「本件発明」という。)を有する原告が、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液を輸入し、これを有効成分とする製剤を製造・販売しようとしている被告に対し、被告は右抽出液の輸入及び右製剤の製造・販売に当たって別紙目録三記載のとおりのカリクレイン生成阻害能の測定方法を使用しようとしているところ、右方法は本件発明の技術的範囲に属し、その使用は本件特許権を侵害するものであるとして、本件特許権に基づき、右測定方法の使用差止めを求めるとともに、右侵害の予防に必要な行為として請求の趣旨第二項ないし第五項の行為を求める事案である。
一 争いのない事実
1 原告は、次の特許権を有する。
(一) 特許番号 第一七二五七四七号
(二) 発明の名称 生理活性物質測定法
(三) 登録年月日 平成五年一月一九日
(四) 出願年月日 昭和六二年九月八日
(五) 出願番号 特願昭六二-二二五九五九号
(六) 出願公告年月日 平成四年三月一一日
(七) 出願公告番号 特公平四-一四〇〇〇号
(八) 特許請求の範囲 本判決添附の特許公報(以下「本件公報」という。)の該当欄第1項記載のとおり
2 被告は、平成九年三月一四日、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液につき薬事法に基づく輸入承認を得るとともに、これを有効成分とする製剤(商品名「ナブトピン注」以下「被告製剤」という。)につき薬事法に基づく製造承認を得、さらに、平成九年七月一一日、被告製剤につき健康保険法に基づく薬価基準の収載を受けた。そして、被告は、右抽出液を輸入し、これを有効成分とする被告製剤を製造して、科研製薬株式会社を通じて販売しようとしている。
3 本件発明は、被検物質のカリクレイン生成阻害能を測定する方法の発明である。
カリクレインは、タンパク質を分解する触媒機能を有する酵素タンパク質の一種であり、血漿中に存在するカリクレインは、同じく血漿中に存在するタンパク質である高分子キニノーゲンに作用してこれを分解し、疼痛及びアレルギーの原因物質であるブラジキニンを遊離させる。
被告製剤は、種々の疼痛やアレルギー性疾患に対して治療効果を有するが、それは、その有効成分であるワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液が生体に作用して、血中や組織中のカリクレインの生成を阻害し、それによって疼痛及びアレルギーの原因物質であるブラジキニンの遊離を抑制するという作用機序に基づいている。
ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液は、生体の皮膚組織から抽出された抽出液であり、化学合成医薬品のように、化学構造式によってこれを構成している化合物を特定することができないため、右抽出液及びこれを有効成分とする製剤の品質規格の検定に当たっては、そのカリクレイン生成阻害能の測定が行われる必要があり、被告も、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液の輸入承認申請及び被告製剤の製造承認申請に当たって、右抽出液及び被告製剤のカリクレイン生成阻害能の測定を行い、また、今後、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液を輸入し、被告製剤を製造・販売するに当たって、右抽出液及び被告製剤のカリクレイン生成阻害能の測定を行う予定である。
4 別紙目録三記載のカリクレイン生成阻害能測定方法は、本件発明の技術的範囲に属する。
二 争点
被告が、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液を輸入し、被告製剤を製造・販売するに当たって使用しようとしているカリクレイン生成阻害能の測定方法が別紙目録三記載のとおりの方法であるか。
三 争点に関する当事者の主張
1 原告の主張
ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液及びこれを有効成分とする製剤の品質規格の検定のためのカリクレイン生成阻害能の測定方法としては、本件発明の方法以外には全く知られていない。
また、原告は、従前から、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液及びこれを有効成分とする「ノイロトロピン特号3cc」との商品名の製剤(以下「原告製剤」という。)について、薬事法に基づく製造承認を得ていたところ、被告の前記輸入及び製造承認申請においては、被告製剤に係るワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液及び被告製剤は、原告製剤に係る右抽出液及び原告製剤の「後発品」、すなわち同じ医薬品原料、同じ医薬品として審査され、輸入及び製造の承認が与えられたのであるから、被告の輸入承認書及び製造承認書の承認事項における「規格及び試験方法」欄に記載されたカリクレイン生成阻害能の測定方法は、原告の製造承認書の承認事項における「規格及び試験方法」欄に記載されたカリクレイン生成阻害能の測定方法と同一であり、被告が今後使用しようとしているカリクレイン生成阻害能の測定方法もこれと同一というべきところ、右測定方法は、別紙目録三記載のとおりである。
したがって、被告が、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液を輸入し、被告製剤を製造・販売するに当たって使用しようとしているカリクレイン生成阻害能の測定方法は、本件発明の実施の一態様である別紙目録三記載のとおりの方法である。
2 被告の主張
被告が、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液の輸入承認申請及び「被告製剤の製造承認申請に当たって使用し、また、今後、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液を輸入し、被告製剤を製造・販売するに当たって使用しようとしているカリクレイン生成阻害能の測定方法は、別紙目録三記載の方法ではなく、本件発明の方法とは異なった、公に開示されていない新規な方法であり、被告は、右方法を特許出願せず、営業秘密として保持している。
また、動物血漿中のプレカリクレイン及びカリクレインを定量するための測定方法は、本件特許権の出願日前から数多く知られており、これらの測定方法を利用して被検物質の血漿中におけるプレカリクレインからのカリクレイン生成に及ぼす作用についての試験を行えば、その被検物質のカリクレイン生成阻害能についての測定を行うことはできるのであるから、被検物質のカリクレイン生成阻害能の測定方法が本件発明の方法のみであるとの原告の主張は誤りである。
第三 争点に対する判断
一 被告が、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液の輸入承認申請及び被告製剤の製造承認申請に当たって使用し、また、今後、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液を輸入し、被告製剤を製造・販売するに当たって使用しようとしているカリクレイン生成阻害能の測定方法(以下「被告測定方法」という。)の内容について、これを認定し得る直接的な証拠はない。
二 原告は、<1>本件発明の方法以外にワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液及びこれを有効成分とする製剤の品質規格の検定のためのカリクレイン生成阻害能の測定方法として公に知られている方法がないこと、及び、<2>被告製剤に係るワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液及び被告製剤は、薬事法に基づく輸入承認及び製造承認において、原告製剤に係るワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液及び原告製剤の「後発品」としての承認が与えられていることを根拠として、被告測定方法は、本件発明の実施の一態様であり、原告の製造承認書の承認事項における「規格及び試験方法」欄に記載されたカリクレイン生成阻害能測定方法と同一である別紙目録三記載の方法である旨主張する。
しかしながら、前記<1>の点については、仮に原告の主張どおりであるとしても、そうであるからといって、本件発明の方法以外にワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液及びこれを有効成分とする製剤の品質規格の検定のためのカリクレイン生成阻害能の測定方法がおよそ存在しないということはできないから、被告が本件発明の方法とは異なった、公に開示されていない新規なカリクレイン生成阻害能の測定方法を実施しようとしていることを直ちに否定することはできないというべきであり、また、前記<2>の点については、そのような事実が、直ちに、被告の輸入承認書及び製造承認書の承認事項における「規格及び試験方法」欄に記載された試験方法が原告の製造承認書の承認事項における「規格及び試験方法」欄に記載された試験方法と同一のものであることを意味するとは認められないから、結局のところ、原告が主張する前記<1>及び<2>の事情を考慮しても、それによって、被告測定方法が別紙目録三記載のとおりのものであることを認定することはできず、他に右事実を認定するに足りる事情もない。
三 以上によると、本件においては、被告が、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液を輸入し、被告製剤を製造・販売するに当たって、別紙目録三記載のとおりのカリクレイン生成阻害能の測定方法を使用しようとしている事実を認めることができないから、右測定方法の使用差止め及び右使用の予防に必要な行為を求める原告の本訴請求は、いずれも理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 大西勝滋)
目録一
ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液。
目録二
ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液を有効成分とする製剤。
目録三
別紙目録一記載のワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液を被検物質として、これに塩化ナトリウム等の電解質及びヒト血漿を加え、次いでこれにカオリン懸濁液等の血液凝固第〓因子活性化剤を加えて反応させた後、リマ豆トリプシンインヒビター等の活性型血液凝固第〓因子に対する特異的阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加えてカリクレインの生成を停止させ、生成したカリクレインを合成基質を用いて定量する上記被検物質のカリクレイン様物質産生阻害能測定方法。
<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告
<12>特許公報(B2) 平4-14000
<51>Int.Cl.5C 12 Q 1/37 1/56 識別記号 庁内整理番号 6807-4B 6807-4B <24><44>公告 平成4年(1992)3月11日
発明の数 1
<54>発明の名称 生理活性物質測定法
<21>特願 昭62-225959 <55>公開 昭63-185398
<22>出願 昭62(1987)9月8日 <43>昭63(1988)7月30日
優先権主張 <32>昭61(1986)9月10日<33>日本(JP)<31>特願 昭61-214959
<72>発明者 豊巻芳男 兵庫県加東郡社町木梨字川北山442番1 日本臓器製薬株式会社生物活性科学研究所内
<72>発明者 西川勝巳 兵庫県加東郡社町木梨字川北山442番1 日本臓器製薬株式会社生物活性科学研究所内
<72>発明者 川久保斉 兵庫県加東郡社町木梨字川北山442番1 日本臓器製薬株式会社生物活性科学研究所内
<71>出願人 日本臓器製薬株式会社 大阪府大阪市東区平野町2丁目10番地
<74>代理人 弁理士 村山佐武郎
審査官 伊藤明
<56>参考文献 Bergmeyer,H.U.外2名編「Methods of Enzymatic Analysis(3rd Edition)-Vol.V "Enzymes 3:Peptidases,Proteinases,and Their Inhibitors"」Verlag
Chemie(Weinheim,Germany,1984)P.338,411-418
Hojima,Y.et al.,Biochemistry,21(16),P.3741-3746(1982)
Bergmeyer,H.U.外2名編「Methods of Enzymatic Analysis(3rd Edition)-Vol.Ⅱ "Samples,Reagents,Assessment of Results"」Verlag
Chemie(Weinheim,Germany,1983),P.442,445
<57>特許請求の範囲
1 動物血漿、
血液凝固第〓因子活性化剤、
電解質、
被検物質、
から成る溶液を混合反応させ、次いで該反応におけるカリクレインの生成を停止させるために、生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第〓因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加え、生成したカリクレインを定量することを特徴とする被検物質のカリクレイン生成阻害能測定法。
2 カリクレインに対する合成基質を用いて生成したカリクレインを定量する特許請求の範囲第1項記載の測定法。
3 動物血漿がヒト血漿である特許請求の範囲第1項記載の測定法。
4 ヒト血漿が加クエン酸血漿又は凍結乾燥品である特許請求の範囲第3項記載の測定法。
5 動物血漿が家畜又は実験用動物の血漿である特許請求の範囲第1項記載の測定法。
6 動物血漿がウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ヤギ、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモツト、ラツト又はマウスの血漿である特許請求の範囲第5項記載の測定法。
7 動物血漿を5乃至10倍希釈して用いる特許請求の範囲第1項記載の測定法。
8 0℃乃至4℃の反応温度下でカリクレイン生成反応を行う特許請求の範囲第1項記載の測定法。
9 血液凝固第〓因子活性化剤がカオリンである特許請求の範囲第1項記載の測定法。
10 電解質が一価の正電荷イオンを含む化合物である特許請求の範囲第1項記載の測定法。
11 一価の正電荷イオンがナトリウムイオンである特許請求の範囲第10項記載の測定法。
発明の詳細な説明
(産業上の利用分野)
本発明は生理活性物質の測定法に関する。更に詳しくは、血漿カリクレインの生成過程に作用を及ほす生理活性物質の測定法に関する。
(従来の技術)
カリクレインは種々の動物の血漿中並びに組織に広汎に存在するタンパク分解酵素であり、カリクレイン・キニン系なる酵素系が知られている。
このカリクレイン・キニン系は生体内において、他の様々な酵素反応系、例えばレニアン・アンジオテンシン系、血液凝固系、線溶系、補体系やプロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンを中心とするアラキドン酸カスケード並びにカテコールアミン等と密接な関連性をもつて作用しており、生体内の機能調節に重要な意義を有している。従つて、カリクレイン・キニン系は、他の酵素系と関連することにより血圧調節作用、血液凝固-線溶-補体系を通じての作用、或いはアラキドン酸カスケードにより生成する種々の生理活性物質による生体調整作用や未梢循環改善作用等に深く関わつているものである。
カリクレイン・キニン系の生成産物であるキニン類は、未梢血管拡張に伴う降圧、血管透過性の亢進、平滑筋の収縮或いは弛緩、初痛、白血球の遊走、副腎皮質からのカツコールアミンの遊離作用など種々の生理活性を有するほか、アレルギー反応を含めた急性炎症のメデイエーターとしても知られており、生体内における存在意義は大きい。
従つて、カリクレインの生成に作用する質、即ちカリクレインの生成を抑制或いは促進する物質の作用を簡便、且つ正確に測定する方法を確立することは、上記のような生体機能の調整に役立つ作用を知るうえで又かかる薬剤を開発する上で非常に有用な手段となるものである。
尚、カリクレイン・キニン系自身は以下のような一連の酵素反応の上に成立するものである。
即ち、この酵素系には血液凝固第〓因子(ハーゲマン因子、以下F〓と略す)が重要な役割を果しており、血漿中のF〓はガラス、カオリン、エラジン酸等の負に荷電した物質、若しくはコラーゲン、ホモシスチン、血小板膜、硫酸化糖脂質等の生体内に存在する物質と接触することにより、或いは組織に対する侵害刺激等により活性化される。この活性化されたF〓(F〓a)は同じく血漿中に存在するブレカリクレインに作用して、これをカリクレインへと変換し、このカリクレインが血漿中の高分子キニノーゲンに作用してノナベプチドであるブラジキニンを遊離させるという一連の反応が引き起こされることになる。
さらに引き続いて、遊離されたキニン類は、前述のような作用により直接的には炎症、痛みやアラキドン酸カスケードに対する作用を引き起こすなど種々の影響を及ぼすことになる。
本発明者らは、このようなカリクレイン・キニン系に関連する一連の酵素反応系を踏まえ、これらの反応を試験管内にて再構成することにより、本発明の反応系が作用物質の測定法として極めて有用で且つ信頼性が高く、又、操作も簡便であることを見出し本発明を完成した。
(発明が解決しようとする問題点)
本発明の目的は、生理活性物質のカリクレイン生成阻害能測定法並びにこの測定法の為の有用な反応系を提供することにある。
(問題点を解決するための手段)
本発明は、血漿中のF〓を活性化することにより、被検物質の存在下で血漿中のブレカリクレインをカリクレインに変換し、生成したカリクレインを定量することを特徴とする被検物質のカリクレイン生成阻害能測定法である。
さらに詳しくは、
動物血漿、
血液凝固第〓因子活性化剤、
電解質、
被検物質、
から成る溶液を混合反応させ、次いで該反応におけるカリクレインの生成を停止させるために、生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第〓因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加え、生成したカリクレインを定量することを特徴とする被検物質のカリクレイン生成阻害能測定法である。
好ましい態様としては、
動物血漿、
血液凝固第〓因子活性化剤、
電解質、
被検物質、
から成る溶液を混合反応させた後、該反応におけるカリクレインの生成を停止させるために、生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第〓因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加え、(以下第一次反応という)、次いでこの第一次反応液を、
カリクレインに対する基質、
緩衝液、
から成る第二次反応液と混合反応させ(以下第二次反応という)、生成したカリクレインによる分解産物を定量する方法が挙げられる。
本発明における反応系は、前期のように二段階の反応により構成されるものであり、第一次反応は血漿にカオリン等のF〓活性化剤を添加して活性型F〓とすることにより、該血漿中のプリカリクレインからカリクレインを生成させる反応系である。
引き続いて行われる第二次反応は、第一次反応で生成したカリクレインを定量する反応系であり、例えば、カリクレインの活性(生成量)をカリクレインに対する特異的基質を用いて測定する方法で行うことができる。
即ち、本発明の測定法は、カリクレインの生成に影響を及ぼす生理活性物質を上記第一次反応系に共存させ、生成したカリクレイン量を第二次反応系において定量することを特徴とする。
本発明で用いる物質血漿は、血液凝固系並びにカリクレイン・キニン系を有するものであればいかなる動物でも用いることができ、例えばヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ヤギ、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモツト、ラツト又はマウス等のものが挙げられ、ヒト、ラツト等が好ましい。
これらの血漿は通常の方法により調製したものを使用することができ、例えばクエン酸存在下に採血した後、遠心分離して得たクエン酸加血漿等を用いることができる。又、本発明の反応系には常法によつて製造された凍結乾燥血漿を用いてもよい。
調製された面漿はそのままで若しくは必要に応じて適宜希釈して用いるが、第一次反応において血漿の希釈率とカリクレイン活性との間に直線的な関係が成立する濃度を選ぶことが好ましい。
本発明において、F〓の活性化剤としては、種々の物質、例えばカオリン、コラーゲン、硫酸デキストラン、エラジン酸、セライト等を用いることができる。F〓活性化剤は、F〓を活性化するためにその至適濃度に調整することが好ましく、例えばヒト血漿を用いて、カオリン懸濁液によつて活性化する場合、最終濃度1乃至3mg/ml、好ましくは1.25乃至2mg/mlに調整して用いることができる。
前項のF〓活性化剤の作用をより完全なものとするために加えられる電解質は、例えばナトリウムイオン等の一価の正電荷イオンを含むものが用いられ、塩化ナトリウム或いは酢酸ナトリウムなどが好ましい。例えばヒト血漿を用いた場合には、第一次反応における塩化ナトリウムの最終濃度は50乃至200mM、好ましくは75乃至150mM、調整することが好ましい。第一次反応は、前述のように血漿にF〓活性化剤を添加してF〓を活性型F〓とすることにより、プレカリクレインからカリクレインを生成させる反応系であるが、この反応は温度が高い時には急激に進行するとともに内因性のインヒビターが働き、カリクレイン活性の測定に非常に影響を及ぼすため、内因性のインヒビターが働かずに反応がゆつくり進行するように、第一次反応は低温下、例えば0乃至4℃で行うことが好ましい。
第一次反応液のpHは、第一次反応の最終産物であるカリクレインの生成に対しての至適pHであることが好ましく、例えばヒト或いはラツト血漿を用いた場合には、pH7.0乃至9.0、好ましくはpH7.5乃至8.5範囲で反応を行うことができる。
第一次反応の反応時間は、第一次反応液中に加えた血漿の量、F〓活性化剤、被検薬の濃度或いは反応液のpH等によつて変化するが、反応時間と生成したカリクレイン量(カリクレイン活性)との間に直線的な関係が成立する時間内に設定することが必要である。なぜならば、本発明測定法はカリクレイン生成に影響を与える生理活性物質の作用を、生成カリクレイン活性で定量する方法が好ましいため、カリクレイン活性が飽和してしまう時間前の直線部分で行わねばならないからである。しかしながら、実際の測定操作上の観点より15乃至30分の間に反応時間を制定することが実際的で好ましい。
第一次反応の停止は、活性型F〓のみを特異的に阻害してさらに余分のカリクレインが生成しないようにし、且つ第二次反応においては測定するカリクレイン活性には実際的に無影響な阻害剤を第一次反応系に添加することで行うことができる。
このような阻害剤として、LBTI(Lima Bean Trypsin Inhibitor:リマ豆由来のトリブシンインヒビター)或いはCHFI(Corn Hageman Fragment Inhibitor:トウモロコシ由来のハーゲマンフラグメントインヒビター)等が挙げられる。
これらの阻害剤は、第一次反応において残存する活性型F〓を完全に阻害し、更に第二次反応において測定するカリクレイン活性に実際的に影響しない濃度範囲になるよう第一次反応停止時に加えるのがよい。例えば、ヒト血漿を用いた場合、LBTIはその最終濃度が4乃至15mg/mlとなるように加えることができる。
第二次反応は、前述のように第一次反応で生成したカリクレーインを定量する反応系であるが、生成カリクレイン活性(生成量)をカリクレインに対する特異的基質を用いて測定する方法が好ましい。
カリクレインに対する特異的基質としては、種々の物質を用いることができるが、例えば、血漿中に存在する高分子キニノーゲン、或いは、合成基質、例えばBenzoyl-Arg-OEt(N-ベンゾイル-N-アルギニンエチルエステル)、Tos-Arg-OMe(N-トシル-L-アルギニンメチルエステル)、D-Pro-Phe-Arg-pNA(D-ブロリルフエニルアラニルアルギニル-p-ニトロアニリド)、Benzoyl-Pro-Phe-Arg-pNA(ベンゾイル-ブロリルフエニルアラニルアルギニル-p-ニトロアニリド)、Pro-Phe-Arg-NA(ブロリルフエニルアラニルアルギニル-ナフチルアミド)、Z-Phe-Arg-MCA(ベンジルオキシカルボニル-フエニルアラニルアルギニル-4-メチルクマリンアミド)等を用いることができる。
高分子キニノーゲンを用いた場合には、生成するブラジキニンはパイオアツセイであるモルモツト回腸若しくはラツト子宮筋等の平滑筋を用いたマグヌス法、或いはラジオイムノアツセイ法(RIA)等の通常の定量方法により定量することができる。
カリクレインのエステラーゼを作用を用いて、その活性を測定する場合には、Benzoyl-Arg-OEt、Tos-Arg-OMe等の基質を用いることができ、測定法としては、例えば、加水分解に伴う吸光度の変化を測定する方法、発色物質に誘導し分光学的に定量する方法、例えば、ヒドロキサメート法、クロモトローブ酸を用いる方法、MBTH(3-メチル-2-ベンゾチアソロンヒドラジン)を用いる方法、螢光物質へ誘導する方法、アルコールデヒドロゲナーゼを用いる方法或いは放射性合成基質を用いて放射化学的に検出する方法などが挙げられる。
更に、発色或いは螢光合成ベブチド基質を用いる場合には、例えばD-Pro-Phe-Arg-pNA、Benzoyl-Pro-Phe-Arg-pNA、Z-Phe-Arg-MCA等を使用することができ、カリクレインの加水分解作用によつて生成した発色物質或いは螢光物質、例えばpNA(p-ニトロアニリン)或いはAMC(7-アミノ-4-メチルクマリン)の量を分光学的に測定し、カリクレイン活性を定量することができる。
第二次反応系において、pHはカリクレインの至適活性pH付近のpH7.0乃至9.0が好ましく、反応温度は同様に至適条件としての室温、即ち20乃至40℃の範囲に設定することが好ましい。反応時間は、温度、pH、基質濃度等によつて変動する。従つて、如何なる反応時間を設定することも可能であるが、測定操作上の観点より30分以内程度が適当である。
(実施例)
実施例 1
動物血漿として、ヒト血漿を用いた場合についての実施例を以下に詳細に説明する。
(1) ヒトクエン酸加血漿の調整
健常な成人より常法に従い、ヒト血液:3.8%クエン酸ナトリウム(9:1)となるように採血した後遠心分離し、ヒトクエン酸加血漿(以下単にヒト血漿という)を上清として得た。
(2) 第一次反応
ヒト血漿 0.1ml
カオリン懸濁液 0.5ml
塩化ナトリウム水溶液 被検薬水溶液 蒸留水 0.4ml
但し、上記組成中、ヒト血漿は第二次反応において1.6乃至2.2mUのカリクレイン活性を示す濃度に生理食塩液で希釈したものを用いた。尚、カリクレイン活性は第二次反応において1μmole/min/mlのp-ニトロアニリンを生成する量を1U(1000mU)とした表した。
標準組成中、カオリン懸濁液の濃度は2.5mg/ml〔50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)〕、0.4ml混液の塩化ナトリウム濃度は0.25Mで行つた。
上記反応液を氷水浴中20分間反応させた後、0.5mlのLBTI溶液〔45mg/ml・50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)〕を加え反応を停止した。或いは、0.2mlの反応液を採取して、0.1mlのLBTI溶液に加えてもよい。(以下これを第一次反応液とする)
(3) 第二次反応
第一次反応液 0.1ml
合成基質 0.1ml
緩衝液 0.2ml
但し、上記組成中、合成基質はD-Pro-Phe-Arg-pNAの4mM水溶液を、緩衝液は100mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)を用いた。
反応に際しては、上記反応液を30℃で20分間反応させた後、1%クエン酸0.8mlを加え、必要に応じて遠心分離して懸濁物を除去した後、p-ニトロアニリンの405nmにおける吸高度を測定した。
(4) 第一次反応の至適pH
各種pHに調整した50mMのトリス塩酸緩衝液を用いて第一次反応を用い、生成したカリクレイン活性を第二次反応にて測定した結果、第一次反応におけるpHは7.0乃至9.0の範囲、好ましくはpH7.5乃至8.5の範囲が至適であることが示された。
(5) 第一次反応における至適塩化ナトリウム濃度
第一次反応において種々の温度の塩化ナトリウム水溶液を用いて第一次反応を行い、その後第二次反応により生成したカリクレイン活性を測定した結果、第一次反応における塩化ナトリウムの最終濃度は50乃至200mM、好ましくは75乃至150mMが至適であることが示された。
尚、上記塩化ナトリウムの最終濃度は血漿中の塩化ナトリウム量を換算せず、添加したもののみから算出した。
(6) 第一次反応における至適カオリン濃度
50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)で種々の濃度に調整したカオリン懸濁液を第一次反応に用い、生成したカリクレイン活性を第二次反応により測定した。その結果、第一次反応においてカオリン濃度は最終濃度1乃至3mg/ml、好ましくは1.25乃至2mg/mlで行うことができる。
(7) 第一次反応の反応時間
第一次反応を種々の時間行つて生成するカリクレイン活性を第二次反応により測定した。第一次反応は0乃至20分の間にて、反応時間とカリクレイン活性との間に直線的な関係が成立する。従つて、本実施例において、第一次反応は20分以内とすることができる。
(8) 第一次反応におけるLBTI量
第一次反応を0℃で20分間行い、種々の濃度のLBTI溶液を加えた後、該第一次反応液の0.1mlを用いて第二次反応を行いカリクレイン活性を測定した。
LBTIは最終濃度4mg/ml以上で活性型F〓を完全に阻害した。又、第二次反応におけるカリクレイン活性へのLBTIの影響を調べたところ、LBTIは第一次反応最終濃度15mg/mlにおいても、カリクレイン活性を低下させるような有意の影響は与えなかつた。
(9) 第一次反応液におけるヒト血漿の濃度
ヒト血漿を生理食塩液で適宜希釈して第一次反応を行い生成したカリクレイン活性を第二次反応により測定した。ヒト血漿を1/5乃至1/10希釈の範囲で用いた次、希釈率とカリクレイン活性との間に直線的な関係が成立した。
0 第二次反応における基質濃度
第二次反応において種々の濃度の合成基質D-Pro-Phe-Arg-pNAを用い、前述のとおり30℃で20分間反応させた結果、第二次反応におけるKm値は0.34mMであつた。
(1) 第二次反応の酵素量
第二次反応の酵素量(即ち第一次反応液の量)を種々の量で用いた場合の、酵素量とカリクレイン活性との関係を調べた。第二次反応に用いる第一次反応液の量が0乃至0.1mlまでの範囲でカリクレイン活性との間に直接的な関係が成立した。
(2) 第二次反応の反応時間
第二次反応を種々の時間で行い、反応時間とカリクレイン活性との関係を調べた。第二次反応においては0~20分の間で、反応時間とカリクレイン活性との間に直線的な関係が成立した。従つて、本実施例において第二次反応は20分以内とすることができる。
(3) 第二次反応の至適pH
種々のpHのトリス塩酸緩衝液(100mM)を調整して第二次反応を行い、反応pHとカリクレイン活性との至適条件を調べた。第二次反応においてはpH7.0乃至9.0、好ましくはpH7.5乃至8.5の範囲で行うことができる。
実施例 2
動物血漿としてヒト血漿、活性型F〓の特異的阻害剤としてCHFI、カリクレインに対する特異的基質としてZ-Phe-Arg-MCAを用いた実施例を以下に示す。
(1) 第一次反応
第一次反応系は実施例1と同じものを用いた。
反応液を氷浴中20分間反応させた後、0.5mlの3mg/mlCHFI溶液〔50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0、0℃)〕を加える。或いは、0.2mlの反応液を採取して、0.1mlのCHFI溶液に加えてもよい。(以下これを第一次反応液とする)
(2) 第二次反応
第一次反応液 0.1ml
合成基質 0.12ml
緩衝液 0.18ml
但し、上記組成中、合成基質は螢光基質Z-Phe-Arg-MCAの10mMジメチルスルホキシド溶液を用い、緩衝液は100mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)を用いた。
反応に際しては、上記反応液を30℃で20分間反応させた後、0.1M酢酸2mlを加え、必要に応じて遠心分離して懸濁物を除去した後、7-アミノ-4-メチルクマリンアミドの螢光(Ex380nm、Em460nm)を測定した。
(3) 実施例1と同様にして、第一次反応及び第二次反応の条件を検討した。
その結果、第一次反応においては、反応停止時のCHFI濃度は2mg/ml上で活性型F〓を抑制できた。
本実施例の第一次反応は、反応の停止時にCHFIを用いている部分のみが実施例1と異なつているので、その他の条件は実施例1と同様であつた。
第二次反応においては、その反応pHはpH7.0乃至9.0、好ましくはpH7.5乃至8.5の範囲であり、合成螢光基質Z-Phe-Arg-MCAに対するKm値は約1mMであつた。
又、第二次反応時間とカリクレイン活性には0乃至30分の間に直接的な関係がみられたので、反応時間は30分以内に行うことができる。
実施例 3
動物血漿としてヒト凍結乾燥血漿を用いた実施例を以下に示す。
(1) 第一次反応
ヒト凍結乾燥血漿 0.1ml
カオリン懸濁液 0.5ml
塩化ナトリウイム水溶液 被検薬水溶液 蒸留水 0.4ml
ヒト凍結乾燥血漿は蒸留水にて溶解した後、第二次反応において1.6乃至2.2mUのカリクレイン活性を示す濃度に生理食塩液で希釈したものを用いた。
カオリン懸濁液、塩化ナトリウム溶液、反応温度、反応時間、反応停止操作などは実施例1と同様に行つた。
(2) 第二次反応は実施例1と同様に行つた。
(3) 実施例1と同様にして第一次反応及び第二次反応の条件を検討した結果、ヒト凍結乾燥血漿を用いても、新鮮ヒト血漿の場合と同様の条件で行えることがわかつた。
実施例 4
動物血漿として、ラツト血漿を用いた実施例を 下に示す。
ラツトクエン酸血漿の調整
エーテル麻酔下のラツト腹部大動脈より、3.8%クエン酸ナトリウム:血液(1:9)となるように採血した後、遠心分離してラツト血漿を上清として得た。
第一次反応
ラツト血漿 0.1ml
カオリン懸濁液 0.5ml
塩化ナトリウム水溶液 被検薬水溶液 蒸留水 0.4ml
但し、上記組成中、ラツト血漿は生理食塩液で 乃至5倍希釈液であり、カオリン懸濁液及び塩 ナトリウム水溶液は実施例1と同様のものを用 た。
上記反応液を0℃で15分間反応せさた後、0.5 の45mg/mlLBTI溶液〔50mMトリス塩酸緩衝(pH8.0)〕を加えた。
第二次反応
実施例1と同様に行つたが、反応時間は30分で行つた。
実施例1と同様にして、第一次反応及び第二次反応の条件を検討した。
その結果、第一次反応においては、pHは7.0乃至9.0、好ましくはpH7.0乃至8.5の範囲で、
塩化ナトリウム水溶液は、0乃至150mM、好ましくは25乃至125mMで、
カオリン懸濁液濃度は、1乃至3.5mg/ml、好ましくは1.5乃至3mg/mlで行うことができる。
又、反応時間と生成するカリクレイン活性は0乃至20分の間に直線的な関係が見出されたので、第一次反応は20分以内とすることが好ましい。
第二次反応においては、その反応pHはpH7乃至9の範囲で至適であり、合成基質D-Pro-Phe-Arg-pNAに対するKm値は0.29mMであつた。
又、第2次反応時間とカリクレイン活性には0乃至60分の間に直線的な関係がみられた。従つて、第二次反応は60分以内に行うことができ、操作上は30分程度が好ましい。
実施例 5
デキストラン硫酸(分子量約50万)をF〓活性化剤として用いた実施例を以下に示す。他の条件は実施例1と同様に行つたが、動物血漿としては、新鮮ヒト血漿及びヒト凍結乾燥血漿を用いた。
(1) デキストラン硫酸濃度は最終濃度1乃至5μg/ml、好ましくは1.5乃至3μ/mlで行うことができる。
(2) 第一次反応における塩化ナトリウム濃度を種々に変えて行つたところ、最終濃度50乃至85mM、好ましくは70乃至80mMが至適であることが示された。
(3) 第一次反応の反応時間に関しては、4乃至20分の間にて反応時間とカリクレイン活性との間に直線関係が成立した。
(4) 第一次反応の至適pHを検討した結果、pH7.8乃至8.3で行うのが好ましいことが示された。
以上のように、F〓活性剤としてカオリン懸濁液の代わりにデキストラン酸を用いても、本発明測定法を実施できる。
実施例 6
〔ブラジキニン遊離抑制作用の検定〕
本発明反応系において、被検薬により発痛・起炎物質ブラジキニンの産生が抑制されているかを調べた。
ブラジキニンの分解を抑えるため、実施例1の第一次反応系にキニナーゼ活性阻害剤〓フエナントロリンを共存させた。ブラジキニンはカオリンに吸着する性質があり、従つて、第一次反応終了後、F〓活性化剤として添加したカオリンに吸着した分のブラジキニンを抽出するため、アセトンを最終濃度50%6になるように第一次反応液に加えた。
ブラジキニン量はラジオイムノアツセイ法により測定した。即ち、上記のように調整した抽出ブラジキニンの試料200μlとアツセイ用緩衝液(0.1%ゼラチン-7mM塩化カルシウイム-0.01%Tween20-0.02%アジ化ナトリウム含有トリス-酢酸緩衝液pH8.5)200μl、125I-Try-ブラジキニン(約50000cpm/ml)200μl及び1/15000希釈ウサギ抗ブラジキニン抗血清200μlを加え、4℃で48時間反応させた。
次いで、正常羊血清200μl及びデキストラン硫酸被覆活性炭溶液500μlを加え、4℃でさらに30分間反応させ、遠心分離して上清を除去した後、ガンマーカウンターにて放射線量を測定し、試料の代わりにブラジキニン標準液を用いて同様に得られた検量線から試料中のブラジキニン量を求めた。
結果の一例を第2図に示す。
(作用)
実施例1の反応系を用いて、インドメタシン、ケトブロフエン、モルヒネ、アミノピリン等の各種鎭痛剤のカリクレイン生成阻害活性を測定した。尚、これらの被検薬は中性付近の水溶液に調製して使用した。
結果の一例を第1図に示す。第1図より明らかなように、鎭痛作用の一因がブラジキニンの遊離抑制作用であるインドメタシンやケトブロフエンは本発明測定法により顕著なカリクレイン生成阻害作用が観察されたが、中枢神経系に作用する鎭痛剤であるモルヒネやアミノピリンはカリクレイン生成阻害作用をほとんど示さなかつた。
さらに、本発明測定系において、最終生成物である発痛・起炎物質ブラジキニンの被検薬による遊離抑制作用を等べた結果の一例を第2図に示す.
第2図より明らかなように、第1図で顕著なカリクレイン生成阻害作用を示した薬剤は、同様に優れたブラジキニン遊離抑制作用を有することが示された。
以上のように、カリクレイン生成阻害(第1図)とブラジキニン遊離抑制(第2図)とは良く相関関係を示し、従つて、本発明測定法はカリクレイン-キニン系に関与する生理活性物質の測定法として信頼性が高いものである。
(効果)
前記の測定結果より、本発明の生理活性物質測定法は、カリクレインの生成に影響を及ぼす物質、例えばブラジキニン遊離抑制作用を有する物質等の測定法として有用であることが明らかに示される。
本発明の反応系は複雑な一連の酵素反応を利用し、従つて、種々の酵素が必要とされるものであるが、酵素源として動物血漿或いはその凍結乾燥血漿を用いることにより、必要とされる一連の酵素の分離精製という、極めて煩雑で時間を要する準備段階を不用とすることができるので、この点において非常に有利なものである。又、本発明の反応系は一連の酵素反応を利用しているものであるから、被検薬として用いる生理活性物質の作用点が多数存在し、従つて、本発明の反応系を利用することで、多観点からみた生理活性物質のスクリーニングを同時に、且つ簡便に行うことができる。
前述のよおうにカリクレイン・キニン系は種々の酵素系に密接な関連を有し、様々な生体制御機能に関わつているので、例えば、アラキドン酸カスケードにより生成するブロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサン等による生理作用の調整物質、レニン・アンジオテンシン系と関連した血圧調節作用物質、血液凝固系、線溶系に対する調整物質、さらには生成物であるブラデイキニンの生理作用を調整する物質、例えば抗炎症物質、鎭痛物推、抗アレルギー物質等の測定法として本発明の反応系は極めて有用なものである。
図面の簡単な説明
第1図は本発明測定法よつて種々の鎭痛剤のカリクレイン生成阻害活性を測定した結果を示したグラフであり、第2図は本発明測定系におけるブラジキニン遊離抑制作用を調べた結果を示したものである。
第1図
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第2図
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特許公報
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